ただの備忘録

現場を振り返ることを枷にして記憶の定着を図る。つまりただの備忘録。(主に舞台の感想)

「タイタニック」@日本青年館ホール 2018/10/6ソワレ

史実に誠実に向き合って作られた作品でした。


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<出演>

加藤和樹石川禅藤岡正明、戸井勝海、相葉裕樹津田英佑渡辺大輔、上口耕平、小野田龍之介、木内健人、百名ヒロキ、吉田広大、栗原英雄霧矢大夢菊地美香、小南満祐子、屋比久知奈、豊原江理佳、安寿ミラ、佐山陽規、鈴木壮麻

<演出>トム・サザーランド

<作詞・作曲>モーリー・イェストン

<脚本>ピーター・ストーン

<翻訳・訳詞>市川洋二郎

音楽監督前嶋康明

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群像劇は月組の「グランドホテル」(2017年)以来かな?同じくトム・サザーランドの演出。トム自身が豪華絢爛なタイタニック号ではあったけど、セットは極力シンプルにしたと仰っていたように、デッキ部分と階段のみ。シンプルだからこそ、そこに生きている人々にフォーカスが当てられていて演出家の思いが伝わってきた。

出演者全員分のお名前を書いた通りメインを張れる役者が勢ぞろいで、観る前から分かっていたけど、目が!!足りない!!豪華すぎるよ~

以下、ネタバレあるよ。

 

 

己の経費削減のためA席での観劇だったけど、1階席でも観たくなる演出。

乗客が次々と乗船していく場面はスピード感があった。客席通路を走り抜けて(※実際には見えていないので想像)、衣装を変えて次々と舞台から出てくる。最初はどれが本役なのか把握できなかった←

 

タイタニック号の行く末を知っているから、1幕の希望や幸せに溢れている場面で泣けてくる。霧矢アリスと栗原エドガーのダンスの場面なんて涙なしに見られない。アリスの上昇志向の強さが最初はちょっと辟易しちゃう感じだったけど、この夫婦の愛の形というのを目の当たりにした。

 

藤岡さんは舞台では初めて拝見したけど、第一声で「この人、歌うまい人だ…」となった。「ボイラールームのアンダースコア」~ディナーまでの演出が凄く好き。怒りに震えなからディナーテーブルの上でダンっと足を踏み鳴らす傍らでは給仕係がきびきびとお皿やナイフなどを整然と並べている。バレッドが足を踏み鳴らすときは直前に給仕が皿を取り上げて磨いている演出が、どんなに労働者階級が怒ろうが上流階級には何も影響がないように思えるし、単純に演出がぞくぞくしますね!

バレッドと上口くん演ずる通信士ブライドのやり取りも凄く好きだ。乗船するときに少し挨拶した仲だったけど、お互いのことを語り、友情が生まれていく。「関係者割引ができるかも」「いくら」「タダ」には思わず笑ってしまった。「プロポーズ」での藤岡バレッドの想いがどんどん溢れてくる様がとても素晴らしかった…。「戻ったら結婚しよう」の答えはその場では明示されなかったけど、二幕で救命ボートを送り出したあとの台詞にその答えが…嗚呼…。

 

三等級の乗客たちのエネルギーに溢れた「なりたいメイドに」。大ちゃん、観る度に上手くなっているように思えて嬉しいよー!(大ちゃんになぜか母性が湧き出る) あと、どじっ子の給仕係がとても可愛かったw。三等級の彼らの行く末はあまりにも悲劇的だけど、ケイトとジムの2人(厳密には3人!)が三等級の客室を抜け出して、救われる結末には希望を感じることができた。わたしは見逃していたけど(だって目が足りない)、ストラウス夫妻が宝石や財布など金目のものをケイトとジムに渡していたと聞いて泣いた…ウウッ…。

 

 

特に心に深く残ったのが藤岡バレッドと禅さんイスメイの二人。

 

冒頭に禅さんが出てきた瞬間、重荷を背負って生きてきた佇まいと表情で涙が出そうになった。寂しそうな悲しそうな眼差し。「いやいや、オーナーって事故の原因作った人じゃん…」と思い直して涙は食い止めたんだけど、ラストの表情とプログラムでイスメイのその後に船の安全に尽力したことを知って、わたしが感じたのは間違いじゃなかったんだと観劇後に気付いた。乗客を差し置いて救命ボートに乗った事実は消えないけど、タイタニックが沈んだあとの彼の人生は1500人の命が常にその背中に重くのし掛かっているような、そんな人生を感じさせた。あぁ禅さん……ウウッ

 

「船長になるために」の歌詞に「(乗客の命は)その手のなかに」とあったのだけど、一幕でスミス船長が手の中にあった氷山を知らせる紙を握りつぶして捨てるさまは最悪の事態が起きることを示してるし、二幕ではマードックが手の中に銃を握りしめて自ら命を絶つ結末は悲しすぎた。これ、英語の曲名が一幕は「To be a captain」で、二幕は「To be captain」なんですね。リプライズなのかなと思ってプログラム確認したら、曲名が異なっていた。船長(資格者)が2人いるなかで"a captain"はスミスのことを表して、二幕でマードックが歌う"captain"は特定の誰でもない「船長」という職を指しているってことでいいんでしょうか…?

 

壮麻さんと禅さんと加藤くんが「誰だ」と互いを責め合う場面、迫力凄かった。だって壮麻さんと禅さんがいるんだよ?凄くない?そしてこの曲で「誰のせいだ」という決着をつけずに終わるのがとても史実に沿っていると感じた。悪者をつくるのは簡単だけど、このタイタニックの沈没はそんな簡単な話じゃないもんね…。

その後、加藤くん演ずるアンドリュースが自室に引きこもって設計図をガリガリ書き直そうとしている姿は狂気を感じた。群像劇の主役って難しいとは思うんだけど、加藤くんは出すぎず、だけど存在感を残していてとても良かった。

スミス船長が船員たちの職務を解いたあと、ブライドが最後の最期までSOSを打ち続け、その周りで必死に祈る仲間たちの姿にぼろぼろ泣いた。そしてストラウス夫妻の気品溢れるダンス。ガウン姿から、メイドたちに身支度を整えてもらいドレス姿へ。最期は美しい姿でという思いに泣けたし、戸井さんのエッチスも素敵だったし、涙が止まらん。安寿さんの気品溢れる美しさ素晴らしい…ウウッ

 

沈没する瞬間、まさかデッキ部分が傾くなんて思ってなかったからびっくりしたよ。そして沈没間際、実際には悲鳴や怒号で溢れていたであろうこの場面をピリッと張りつめ、単純に派手にパニックものにさせなかったトムの演出が、「そこに生きていた人の人生」に焦点を当てることに注力しているように感じた。そして沈没後、救助された人々が「まるでサッカー場のような歓声」「真っ暗な静けさ」と語り、その悲惨さを観客に想像させる。 

 

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上の動画、タイタニックが沈没するまでの2時間40分の様子をその時間のまままとめられたもの。これを観ると、ブライドがSOS信号を出したときにはすでに傾いているじゃんとか、作品を思い出して一層辛くなる。そして最後の沈没する瞬間、「まるでサッカー場のような歓声」も入っていて、静けさに包まれていく様子にますます辛くなる。これが約100年前に起きた出来事。

 

派手ではないけど、心に深く深く染み渡る素晴らしい作品でした。

 

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